黒ジャージ族の苦悩 その2
 

 黒ジャージ族は、非常に謎の多い民族で、私自身が黒ジャージ族について知っていることも、ごく限られた範囲のことです。これはおそらく、黒ジャージ族が他の民族との対立を避けるために、一切の組織を作らず、なるべく目立たないようにしているからだと思います。コソボの紛争にしても、アフリカのフツ族とツチ族の対立にしても、民族同士の対立は非常に恐ろしいもので、争いが始まると止め処も無く続いてしまいます。黒ジャージ族は、他の民族に弾圧されて難民となることも、他の民族を弾圧して征服することもしたくないので、最初から争いを起こさないために、あらゆる組織を作らないことになっているのだと思います。政治政党も作らず、宗教も持たず、黒ジャージ友の会といったサークル活動さえ行なわないのです。お互いが平和にやっていくためには、こういった工夫が必要で、とても良い考え方だと思っています。「国など無いと想像してごらん、宗教など無いと想像してごらん、すべての人が、ただ今日という日のために生きていると想像してごらん」と、ジョン・レノンという人が歌っていますが、思想的には共感できるものがあります。ひょっとすると、彼は"隠れ黒ジャージ"だったのかもしれないと思っているのですが、それも定かではありません。今となっては確かめることもできませんし・・・。
 巷に黒いジャージを履いている人は多くいますが、どの人が黒ジャージ族で、どの人が違うのか?見ただけでは判断がつきません。私自身も黒ジャージ族についてもっと知りたいと思っているので、開店前のパチンコ屋の店頭に並んでいる人や、新聞の契約を取りに回っている人などの中に、自分と似たファッションの人を見かけると、「ひょっとして、あなたも黒ジャージ族ですか?」と声をかけたくなるのですが、組織を作らないためには、なるべくそれもしないほうが良いのだと思います。
ダンボールに野菜を入れて運んでいる人も、ダンボールで家を作って住んでいる人も、見た感じは大差ないので、誰が黒ジャージ族なのかを識別することは非常に困難ですが、身近にいる人の中で、「あぁ、この人は同じ民族かもしれない」と感じられる人が一人います。かっぱの家保育所で働いている「おっちゃん」という保父さんです。彼もジャージを愛用していて、どこにでもジャージで出かけます。保育所で働いている時も、卓球している時も、家でうどんを食べている時も、いつもジャージを履いているので「この人は先輩かもしれない」と前々から思っていました。本来は、聞いてはならないことなのですが、ついに先日、「おっちゃん、ひょっとして黒ジャージ族?」と聞いてしまいました。そうしたら、「オレは青だよ」とあっさり否定されてしまいました。「えぇ!それじゃ話の続きが書けないじゃない、おっちゃん黒ジャージ履いてたよね!?」と、くいさがってみたのですが、「いいや、オレは青だ」と、どうしても認めてくれません。私はちょっとがっかりしつつも、「おっちゃんと違っててよかった」と心のどこかで安心し、複雑な心境でした。家に帰ってから、そのことを女房に報告したら「朝鮮半島の南北みたいなもんでしょ、大体同じよ」と言われ、なるほどそういった見方もあるかもしれないなぁと納得し、再び、嬉しいような怖いような複雑な心境になりました。
さて、ここからが本題です。最近、私たち黒ジャージ族は、存亡の危機に直面しています。というのは、毎年1〜2本のジャージを新調しているのですが、スポーツ用品店に買いに行っても、自分にぴったりのサイズのジャージがなかなか見つからないのです。そして、その傾向は年々強まっています。最近の若者はどんどん足が長くなっていますので、メーカーは、そういった若者の体に合わせてジャージを製造するようになってしまいました。だから、お腹のところがぴったりのサイズを履いてみると、遠山の金さんのように裾を引き摺ってしまいます。何着も試してみるのですが、ほとんど全てのジャージの裾が長すぎる!。「なんだよ、これじゃ足長族になっちゃうじゃないの」とぼやきつつ、探しても探しても見つからないのです。
・・・レディースのLサイズ試してみようかな・・・レディース売り場で探すのはちょっと恥ずかしいかな・・・・女房のジャージ選んでいるふりしようかな・・・・いや、やっぱり男物買って、裾上げ頼んでみようかな・・・無理かな?・・・。と黒ジャージ族は苦悩しているのです。
この問題の根底には、食生活の問題があります。食は風土が生むものであり、文化そのものであると思います。独自の食文化を捨て、他の民族の食文化を受け入れてしまうと、裾の長さの問題だけでなく、最終的には民族の滅亡へと向ってしまうのです。ですから私はこれからも、がんばってこの仕事を続けていきたいと思っています。おしまい。
(誰か、足の短い人用のジャージ売ってる所を知ってたら教えてください・・・)


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